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東京高等裁判所 昭和42年(う)632号 判決

主文

被告人赤松に対する原判決を破棄する。

被告人赤松を懲役一年二月に処する。

被告人赤松に関する原審の訴訟費用は全部同被告人の負担とする。

被告人中村の控訴を棄却する。

理由

被告人赤松の弁護人らの控訴の趣意第一点について

所論は被告人赤松に対する原判決の第一、第三および第四の各事実における同被告人の拳銃の把握は、いずれも銃砲刀剣類所持取締法第三条第一項、第三一条第一号にいう拳銃の所持には該当しない。すなわち右各事実における拳銃合計三丁は、被告人赤松の仲介により関本晃久がそれぞれ斎藤松芳、鈴木秀雄および中村敏彦に一丁ずつを売渡したものであるが、右第一および第三の事実のときは、いつたん買主が関本から拳銃を受取つた後、その場で被告人赤松は買主から一寸みせてくれといつて受取つてこれをみただけであり、また右第四の事実のときは、関本の使者として拳銃を関本から受取つてすぐ側にいる買主に手渡したに過ぎないのであつて、右いずれの場合にも拳銃を同被告人自身の実力支配下に置く意思は当初からなかつたのであるから、被告人赤松が拳銃の売買の仲介を引受けたため関本が拳銃を原所有者から買受け所持するにいたつた点において、被告人赤松はむしろ関本の拳銃の不法所持罪に対し従犯的立場にあつたとは思われるが、被告人赤松の拳銃の把握自体は同法にいう所持とみることはできないと主張する。

よつて検討するに、被告人赤松は、かつて留置場で知合い、今は拳銃のブローカーをしている関本晃久から「拳銃をいくらでも入手して売ることができるから、買受人をみつけてくれ」と頼まれてこれを承諾し、拳銃の買受人をみつけたうえ関本と買受人との間を仲介して拳銃売買の日時、場所、価格等を取りきめ、自己の手を介して拳銃の取引および授受を行わせて、関本または買受人からいわゆるさや稼ぎをしたのである。そして原判示第一の事実では、被告人赤松が立川市内伊勢丹デパート近くのバーで拳銃の買受人斎藤松芳から買受代金一〇万円を受取つて関本に渡し、関本はその金を持つて直ちに立川米軍基地へ行つて拳銃を買受けてきたので、同バーの前に待たせておいた斎藤の車に関本、斎藤、被告人赤松が入り、同車内で被告人赤松は関本からその拳銃を受取つて買受人斎藤にこれを手渡したのである。しかして被告人赤松がかように関本から拳銃を受取つて買受人斎藤に手渡したのは、同拳銃の売買の仲介としての立場からなされたのであり、またその間数一〇秒の短時間であるが、同時に、同拳銃の品質、性能等を一応点検してみる意味合いも含まれていたと認められるので、売渡人の使者または補助者としてただ機械的に受渡しの仲介をしたものではなく、まれ単なる好奇心から他人の所持する拳銃を一寸みせてもらう場合と異るものであることは勿論であるが、拳銃の従来の所持者および新たにその所持者となろうとする者が現に同一自動車内におり、その反面従来の所持者の手を離れて新所持者の手に移るまでの場所的および時間的幅は僅少であつたことを考慮すれば、被告人赤松の売買仲介人としての拳銃の把持は一層自主性の薄弱なものであり、同把持によつては従来の所持者はまだその所持を失わず、仲介人たる被告人赤松においても、独立的には勿論、従来の所持者と重畳的にも同拳銃を自己の実力支配下に置いたとはいえず、これを所持するにいたつたものではないと解するのが相当である。原判決がこれを被告人赤松の拳銃所持と認定したのは、事実を誤認したか、法令の解釈適用を誤つたものであり、原判示第三および第四の事実についても被告人赤松は売買の仲介人として同判示喫茶店の便所内で関本から拳銃を取受り、前同様品質、性能等を一応点検したうえ同喫茶店内の鈴木らのいるテーブルのところまで拳銃を持つて行つてテーブルの下で鈴木らに手渡したものであつて、拳銃移動の場所的、時間的幅は、前記同一自動車内におけるよりは多少広いが、なお前説示に従い、その間被告人赤松がそれらの拳銃を所持したとみることはできないのに、これを所持と認定した原判決は、同様の誤りを犯すものであり、それらの誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、すでにこの点において論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

しかしながら、被告人赤松が関本の依頼に応じ拳銃の買受人をみつけてきて拳銃の売買の仲介をしたので、関本が拳銃を入手して所持し、また斎藤らが関本から、被告人赤松の手を介しこれを買受けて所持するにいたつたのであるから、被告人赤松の同売買仲介の所為は、関本および斎藤らの所持を幇助したものであり、その刑事責任を免れることはできない。<後略>(樋口勝 小川泉 関重夫)

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